TPPでもっと身近に!マレーシア市場を見る4つのポイント

2015年10月、TPP協定が大筋合意されたことを受けて、今後マレーシアでも国内法の整備がスタートする。TPPの発動により、日本から見てマレーシアのどのような市場の拡大が見込めるのだろうか。

相対的に見ると存在感が薄いマレーシア

まず、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定とは,オーストラリア,ブルネイ,カナダ,チリ,日本,マレーシア,メキシコ,ニュージーランド,ペルー,シンガポール,米国及びベトナムの12か国で進められている経済連携協定であるが、この12か国を経済規模(GDP)で並べると、圧倒的に米国の規模が大きく、その後、日本、カナダ、オーストラリアと続く。

TPP_GDP

GDPで参加12か国を比べるとマレーシアやシンガポールなどアジア各国の存在感は非常に小さく見える。しかし、この表に都道府県のGDPを入れて比較すると、マレーシアやシンガポールは大阪府、愛知県、神奈川県と同規模の市場ととらえることができる。

Malaysia_GDP

ぐっと身近になるマレーシア市場

TPPによって、マレーシアやシンガポールでは大阪、名古屋、横浜などに相当する規模の市場が開放されると考えると、直感的にわかりやすい。TPPによって、外資の市場参入が緩和されたり、関税が撤廃されることになるので、中小企業にとっても新規参入しやすくなる。GDPの成長が乏しい日本国内の市場よりも身近で成長力のあるアジア市場を開拓する意義は十分にあるだろう。

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それでは具体的にどのような市場が活性化されていくのかヒト・モノ・カネ・情報の4つのポイントを見てみよう。

1.ヒト:労働市場の流動化

外資規制の緩和にともない労働ビザの発給条件も緩和されることになれば、企業は国境を超えてよりよい人材を集めやすくなる一方で、労働者はよりよい雇用環境を求めて移動しやすくなる。現時点ではTPP経済圏での賃金レベルは各国で大きな差があるが、労働市場の流動化によって、フラット化されていき、職能や職種ごとの賃金格差が徐々に解消されていくだろう。
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2.モノ:関税の撤廃による国際取引の活発化

ほとんどの工業品や農林水産品など貿易品目の関税が撤廃され、投資や貿易のルールが統一されることで、TPP経済圏での市場統合が進んでいく。コンビニエンスストアは外資規制がされていたが、30%を上限に緩和される見込みだ。これにより、日本式のコンビニエンスストアが増加すれば日本の小売チャネルが強化されることにもつながる。

マレーシアのセブンイレブンの正体についてはこちら

アルコール飲料メーカーにとっても追い風だ。マレーシアはビール1本あたり5リンギット(約145円)、日本酒には25.5リンギット(約739円)、ウイスキーとブランデーには58リンギット(約1682円)の関税をかけているが、発効時から段階的に引き下げ、16年目に撤廃される。美味しい日本のビールや日本酒を手軽な値段で飲める日が待ち遠しい。(ベタベタ貼られたシールがなくなる日も待ち遠しい!)

Beer

3.カネ: 邦銀の事業範囲が拡大

マレーシアでは外国銀行の支店数の上限が8支店に制限されていたが、これが16支店まで拡大される。また、外国銀行の店舗外の新規ATM設置制限も原則撤廃される見込みだ。マレーシアにはすでに三菱東京UFJ、三井住友、みずほが現地法人を設立しているが、これに続く銀行もでてくるだろう。

4.情報:ICTインフラやソフトウェア産業の活発化

ICT産業ではすでにインターネットを基盤として国境を越えたサービスが展開されているのでビジネスの実態に制度が追いついてきたという印象だ。例えば、マレーシア国内でビジネスをする際にマレーシア国内のサーバーを利用するように要求することはできなくなる。世界中で利用できるクラウドサービスが進化した時代には当然のようにデータやコンテンツは国境を超えているので、現実に即した内容だと言える。

TPPで浮き彫りになるマレーシアのジレンマ

 さて、ここまでTPPによるマレーシア市場拡大のチャンスについて書いてきたが、死角はないのだうか。TPPは関係国間での大筋合意となったとはいえ、マレーシア国内での法整備はこれからだ。
マレーシアはアジア各国と比較すると、それほど多くない約3000万人の人口と、自国の産業も限られることから、海外資本を積極的に取り組みながら経済成長を遂げてきた経緯がある。しかし一方で、「マレー系住民優遇政策」とも言えるブミプトラ政策を国家として維持している現実もある。現ナジブ政権には汚職疑惑があるなど不安定化している中で、従来、政府系の調達などで優遇されてきたブミプトラ系の企業の反発を抑えながら、TPPのルールを法令化できるのか、マレーシア国内で超えるべきハードルはまだ残されている。

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Issued by 「マレーシア ソーシャルナビ 2015」

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