世界に16億人以上いると言われるイスラム教徒の目線でみると、普段と違った景色を見ることができる。
マレーシアに来て間もないころ、電車に乗り込もうとしたとき「Coach for Ladies Only」と書かれたピンク色のステッカーが目に入ってきた。あやうく女性専用車両に乗り込むところだったのだ。その時はマレーシアにも日本と同じように、痴漢などの犯罪から女性を保護するために女性専用車両があるのだろうと思った。
しかし、イスラム教やヒンズー教の信者の多い国、たとえばパキスタン、イラン、エジプトでは、イスラム教の戒律に基づき女性専用車両(男女別車両)を運行していることを知れば、マレーシアのこの女性専用車両も宗教上の理由で男女の車両を分けるために導入されたという見方にいきつく。日本にいたときには女性専用車両を見て宗教上の理由があるとは思いもよらなかった。
マレーシアはイスラム社会の優等生
まだ先進国入りを果たしていないマレーシアという国を先進諸国の目線でみるとまだまだ”中進国”という見方になるが、イスラム国家、特に中東や北アフリカの国々の目線でみると、マレーシアは非常に優等生の国家に見える。2010年から2012年にかけて「アラブの春」が発生したアルジェリアやエジプトなどイスラム教徒の多い国々ではまだ混乱が続いていて、安定した経済発展というにはほど遠いが、そのような状況のなかで多民族国家でありながら安定した国家を維持し、着実に経済発展を続けているマレーシアは羨望の的にみえるだろう。
ハラールマークもマレーシアが模範生
日本人はあまり意識しないが、イスラム教徒に欠かせないものの代表例はハラール食品だ。スーパーマーケットなどで食品を購入する際にはイスラム教の教義に従っているということを証明するハラールマークが付いているかどうかが判断基準となる。しかし、そのハラールマークを発行する認証機関の基準がイスラム社会で統一されていないため、ある国で認証を受けた食品がほかの国でノン ハラールとされるケースも少なくない。そのような状況で、マレーシアのハラール認証制度は、世界で唯一、政府機関が運営しているためイスラム教徒に信頼されており、マレーシア以外の国にでも受け入れられやすい状況にある。
マレーシアから広がる16億人のイスラム社会
マレーシアの人口は3000万人弱でそのうちの約67%がイスラム教徒なので、ほかのイスラム国家の人口と比較すると一見マーケットは小さくみえる。しかし上記のようにイスラム社会の目線で見れば、多くのイスラム教徒に信頼されているマレーシアで商品やサービスを提供しイスラム教徒の信頼を得ることができれば、そこから16億人という巨大市場に乗り出す手がかりをつかむことができる。「どうすれば16億人のイスラム社会で自社の製品が売れるだろうか?」唐突かもしれないが、そのような目線で検討したことをテストしてみるにはこれ以上最適な国はないだろう。
Issued by 「マレーシア ソーシャルナビ 2014」