マレーシアの人気ベーカリー店が持つ3つの顔

マレーシアで知らない人はいないというくらい有名なこのロゴマーク。マレーシアで人気のベーカリーショップ「The Loaf」(ザ・ローフ)の看板だ。にこやかにほほ笑むパン職人はマレーシアのマハティール元首相がモチーフになっている。どのような経緯があって”街のパン屋さん”の看板にマハティール元首相の似顔絵が描かれることになったのだろうか。

Theloaf

マハティール氏は第4代マレーシア首相として1981年から2003年までの22年間もの長きにわたり、同国の成長において絶大な指導力を発揮してきた。「東の成功した国に学ぶべきだ」1980年代、西洋志向が強い中で、アジアで最も早く経済成長を遂げた日本を見習おうと主張した「ルックイースト政策」を推進したことでも知られている。

頻繁に日本を訪れていたマハティール氏は日本で食べるパンの美味しさに感激されたそうだ。特に銀座三越にあるベーカリーショップ「ジョアン」がお気に入りだったというエピソードがある。この味をマレーシアにも広めたいという思いが心のどこかに眠っていたのかもしれない。

その思いはマハティール氏が首相を退任した2003年当時、マレーシアIT産業開発銀行頭取だった鈴木二郎氏との出会いから実現に向けて歩みはじめる。なんと頭取だった鈴木氏は2005年に同行を退職し、M&Mコンソリデーテッド・リソーシズを設立、社長に就任してマハティール氏とともに共同でベーカリーショップの経営を開始するという決断を行った。その後の鈴木氏の活躍を見るかぎり、この決断はマハティール氏が促したものではなく、むしろ鈴木氏自身がもともと持っていた起業家精神とリーダーシップによるものだと考えるのが自然だろう。

このとき、全くの畑違いのベーカリーショップ経営を始める鈴木氏は主に3つの顔を巧みに利用してブランドを築いていったと思われる。

  1. マハティール元首相の顔
    圧倒的な知名度があるマハティール元首相が共同経営者であるということだけでも大変強力なブランド力を獲得できる。マハティール氏の顔をモチーフにした看板を掲げることでその知名度を最大限活用することができる。もともと日本のパンが好きだったというようなストーリーも話題性を呼びやすい。
  2. 日本発の高品質なベーカリーという顔
    マレーシアの人々にとって日本製は高品質というイメージがある。少々値段が高くても納得して購入する消費者が多い。(The Loafの公式サイトには伝統的な日本技術を使っていると明記されている)
  3. 世界的に有名なパン職人 松原氏の顔
    数々の世界的なグランプリを受賞している松原裕吉氏の起用は「The Loaf」の成功を決定づける要因だろう。
    松原裕吉氏はパン職人として腕を振るうだけではなく、製品プロデュースやスタッフ教育まで手掛けてブランドを裏付ける美味しいパンを作り出している。

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2006年、マハティール氏の出身地であるランカウイ島に一号店を出店して以降、「The Loaf」は上記の3つの顔を活用したブランド力と日本品質の美味しいパンが話題になり大ヒット。ベーカリーレストランへと業態を広げながら着実に店舗数を増やしており、現在はマレーシア国内で16店舗を数えるまでになっている。今後はブランド力をいかしたフランチャイズ展開なども可能になっていくことだろう。

ますます人気が高まる「The Loaf」。ただ、今年89歳になったマハティール氏が本当に欲しいのは、そのようなブランドや日本品質のパンが広まることではなくて、自身の似顔絵の隣で美味しそうにパンを食べる国民の笑顔なのかもしれない。

後日談:松原氏はその後、独立してモントキアラでB-Labをオープンし人気店となっている。(関連記事

<もっと知りたい方におススメの本>
マハティール氏が何を考え、どのようにマレーシアを率いてきたのか。様々な逆境に立ち向かうその熱い思いが伝わってくる一冊。

Issued by 「マレーシア ソーシャルナビ 2014」