近年、マレーシアでもクラウドソーシングによる新しい働き方が広がりつつある。
クラウドソーシングとは不特定の人(クラウド=群衆)に業務を外部委託(アウトソーシング)するという意味の造語であり、発注者がインターネット上のウェブサイトで受注者を公募し、仕事を発注することができる働き方の仕組みで、マレーシア国内の事業者としてはHuman Capital Connection が運営する「YourPartTime.com」を筆頭にサービス提供者が台頭してきている。
(YourPartTime.com / MyKerja / EduSource / POKOK)
マレーシア政府の思惑と合致
この新たな動きにいち早く目を付けたのが、マレーシア通信マルチメディア省傘下の政府機関である、マルチメディア開発公社(MDeC)だ。マレーシアは2020年まで先進国入りを果たす目標を掲げており、ICT産業には2020年までにマレーシアGDPの17%に貢献することが目標設定されている。
クラウドソーシングの新たな潮流は低所得者層(B40)の所得底上げを狙うマレーシア政府およびマルチメディア開発公社の思惑と合致した。 クラウドソーシングにより、2020年までに30万人以上のワーカーを育成し、月額平均RM550 (約18,000円)の所得を得ることを目標に掲げている。
ボトム40%を名指しで支援
B40とはBottom 40%を意味しており、月額所得がRM3,050 (約10万円)以下の40%のマレーシア国民を指している。公的な機関が堂々と低所得者層をBottomと呼んでいることに驚くが、マレーシアは建国以来、マレー人(ブミプトラ)の所得底上げが国家的な目標となっており、国が掲げる指標でも常に民族ごとに所得水準を注視している。
世界最大手フリーランサー(freelancer.com)もマレーシアのパートナー
クラウドソーシングによる所得底上げに注力するマルチメディア開発公社(MDeC)はマレーシア国内の事業者のみならず、2013年に世界最大手のフリーランサーともパートナーシップを結んだ。低所得者の収入向上プロジェクトに特化した、他に例を見ないパートナーシップとなっていて、MDeCの本気度がうかがえる。現在、このパートナーシップの元、freelancer.comで登録されているマレーシアのフリーランサーは455名。プログラミングやデザイン、データ入力などの分野で世界の労働市場に乗り出している。
ブミプトラ政策の出口はみえるのか
マレー人(ブミプトラ)、華人(中国人)、インド人の三大民族が同居するマレーシアでは、常に民族ごとの生活水準格差に神経をとがらせてきた。その一つの解決策がマレー人を優遇するブミプトラ政策であり、現在も脈々と受け継がれている。しかし、グローバル化する国際社会のなかで1つの民族を優遇する政策は多くの批判にもさらされている。ブミプトラ政策の出口を模索するマレーシア政府にとって、クラウドソーシングによるB40の所得底上げというシナリオは魅力的に見えるだろう。
一方、長年にわたって優遇されてきたマレー人は優遇措置のないフェアなプラットフォームでどこまで競争力を発揮できるだろうか。このプロジェクトの成否のカギはマレー人自身の意識改革にかかっているように見える。
<もっと知りたい方におススメの本>
マレーシアの歴史や民族をもっと理解したい方におススメの一冊
マレーシア新時代‐高所得国入り‐[第2版] (創成社新書49)
Issued by 「マレーシア ソーシャルナビ 2015」