シンガポールが世界1位
毎年、世界銀行が発行している「Doing Business (ビジネス環境の現状)」というレポートがある。
10月29日に発表された今年のレポートによると、世界189の国と地域を対象に、企業活動に影響を及ぼす規則や制度を比較評価して、ランキング付けした結果、総合評価では昨年に続きシンガポールが1位、マレーシアは昨年から順位を2つ上げて18位だった。マレーシアは東南アジア諸国のなかではシンガポールに次いで、2位につけている。
アジアのハブとして先行するシンガポール
元々は1つの国であったマレーシアとシンガポール。1965年、マレーシア連邦から追放される形で都市国家として分離独立したシンガポールはリー・クアンユーのリーダーシップのもと、アジアのハブを目指して、金融業、製造業、小売業など海外からの直接投資を呼び込むことで、国土も狭く、天然資源もない国家を発展させてきた。1人当りGDP額の推移を見ると、1980年代以降、シンガポールとマレーシアの1人あたりのGDP額の差は開く一方で、2014年には約5倍もの差ができている。シンガポールの1人当たりのGDPは2017年頃には6万ドルを突破する見込みだ。
経済規模では、ほぼ同じ
一方、マレーシアは1981年に就任したマハティール首相のリーダーシップのもと、石油やゴム、パームオイルなどの豊富な一次産品の輸出を主な財源として経済基盤を整備してきた。さらに1991年には、2020年までに先進国の仲間入りを達成させる開発構想プロジェクト「WAWASAN 2020 (Vision2020)」を掲げ、その後の開発計画をけん引している。
1人あたりの名目GDPではシンガポールが圧倒的に上回っているが、下のグラフの通り、国全体の名目GDPで見た場合、シンガポールとマレーシアはほぼ同じ経済規模で推移してきたことがわかる。
しかし、このIMFの予測データは2015年からこの傾向に変化が起きることを示している。2015年以降、何が起こるのか?
2015年に転機を迎えるシンガポール
2015年からシンガポールに起こる転機は人口予測で見ることができる。シンガポールの総人口が頭打ちとなり、急速に高齢化が進む転機が2015年となるだろう。人口が増えない状況で経済成長は継続するので、一人当たりのGDPは跳ね上がるが、上のグラフのように高齢化とともに国家としての経済規模はマレーシアに離されていくように見える。
一方のマレーシアは生産年齢人口が人口の多くを占める状態(人口ボーナス)が2030年頃まで続くと予測され、可処分所得の伸びとともにGDPをけん引していくと予測されている。
シンガポールがマレーシアに接近する理由
従来、シンガポールの弱点は、「人件費や不動産コストの高さ」、「国土の狭さ」、「エネルギー、水、食料などの資源の対外依存」が指摘されてきたが、これらに加えて「急速な高齢化」が経済成長の足を引っ張ることになる。そして、これらの弱点を抱えるシンガポールからみれば、マレーシアはまだまだ安い労働力や土地、天然ガスや飲料水などの資源、更にこれから2030年まで続く生産年齢人口の増加など、シンガポールの弱点を克服するためのリソースをマレーシアが持っていると解釈できる。シンガポールからすぐ目の前にあるこれらの材料を自らの成長のために利用しない手はない。
分離独立から50年を迎える節目に
来年、シンガポールがマレーシアから分離独立してから50年目の節目を迎える。約50年前にケンカ別れのような形で分離独立したシンガポールだったが、2015年には記念行事なども予定されており、二国間の友好関係はますます好転していくだろう。
このタイミングでシンガポール対岸のジョホールで開発が進むイスカンダル計画、シンガポールとクアラルンプールをつなぐ高速鉄道計画などシンガポールとマレーシアが接近するプロジェクトが進んでいるのはおそらく偶然ではない。このような国家プロジェクトの背後では、転換期を迎える世界1位の国家、シンガポールの強かな成長戦略が遂行されているのだろう。
Issued by 「マレーシア ソーシャルナビ 2014」
コメント
出典のはっきりしたデータと興味深い記事の数々、
毎日とても楽しみにしております。
マレーシアの発展に期待して、
マレーシアに移る準備をすすめてきましたが、
今日の記事には朝から「びっくり!」で悲鳴をあげそうになりました。
日本は国際ビジネスの観点で、もうマレーシアに抜かれてしまっているのですね。
(自分の国ですから、複雑な思いです。)
さまざまな情報のシェア、ありがとうございます。
NSさん、コメントありがとうございます!励みになります。
国際的に比較してみると日本は法人税が高かったり許可申請する際の手続きが煩雑だったりする点が評点を下げています。
http://www.doingbusiness.org/rankings
今後、法人税の実効税率が下がる方向ですが、そうなればランキングは上昇すると思います。